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[書評]読むサッカーvol.40 『信念 己に勝ち続けるという挑戦』
国籍や距離を越える言葉。ディエゴ・シメオネの“本質”
11年、資金難に苦しむ古巣に舞い戻ったディエゴ・シメオネが示したのは二つだけだったという。“信念を持つこと”、“尽力すること”。アルゼンチン人指揮官に率いられたアトレチコ・マドリーは、わずか半年でEL優勝を果たし、現在に至るまでの6年間で欧州スーパーカップ、コパ・デル・レイ、ラ・リーガの頂に到達することになる。
本書は圧倒的なカリスマ性を持つディエゴ・シメオネの“本質”に迫る自伝である。描かれているのは、マネージャーとしての心得。どのようにしてアトレチコ・マドリーを世界トップクラスに導いたのか。フットボールの戦術的考察といった技術ではなく、試合へ臨むための準備や選手たちの秘める情熱の引き出し方など“心”にスポットが当てられている。
生い立ちから現在までの過程、選手・監督としての経験と逸話、そして思考。それらすべてを通じて明示されるのは、なぜ彼の発する言葉が圧倒的な強度と説得力をもって選手たちを突き動かすのかということだ。98年フランスW杯でデイヴィッド・ベッカムを退場へ追い込んだ“悪者のレッテル”。2度にわたって欧州CLの決勝まで到達しながらタイトルを阻まれた屈辱。シメオネ自身「リーダーになるためには、生まれながらにリーダーシップを備えていなくてはならない」と語っているが、それは彼の一つの個性に過ぎず、同時に彼がいかに悔しさをエネルギーに変えてきた人物であるかを伺い知ることができる。
「危機的な状況というものは素晴らしい。学びを得るためには最高である」。努力と忍耐こそ、夢の実現に不可欠。そんな“信念”に基づいたものだからこそ、シメオネの発信する言葉は国籍や距離を問わず、あるいはフットボールの枠にとどまらず、多くの人の心に突き刺さっていくはずだ。
彼は「フットボールはフットボールだけにとどまらない。人生そのもの」だと言う。いかなる困難に遭遇しても、可能性は己の中に存在する。自己啓発の価値も併せ持つ本書。誰も予想し得なかったタイトルをもたらしてきた名将の言葉を借り「自らの力で奇跡を起こせると信じる、すべての者たち」に手に取ってもらいたい。
文:村本 裕太(エルゴラッソ編集部)著者:ディエゴ シメオネ(DIEGO・SIMEONE)
発行:6月20日/出版社:カンゼン/価格:1,800円(本体価格)/ページ:256P