-
18年ぶりに寿人と同じクラブでプレーする佐藤勇人。引退もよぎった男がいま目指すもの
千葉が始動した8日。2カ月前、『引退』の二文字が頭をよぎったという佐藤勇人の表情は柔らかく、心なしか笑顔が多かったように映った。「そうかもしれないですね」。本人に問うと、少し考え込んだあと、照れながらも素直に認めた。
言わずもがな、その最たる理由は18年ぶりに千葉に帰還した双子の弟・寿人の存在だろう。
20年目に突入した長いプロ生活の間、もう一度、兄弟で同じユニフォームを着てプレーしたいという夢を持っていった。しかし、ここ数年は少し違った。
「(今年3月で)もう37歳。双子で一緒にやるのはほぼあきらめていた状態でした。(一緒にプレーすることを考える)余裕もなかったですし、俺だけではなくて寿人もそうだったと思います」
齢を重ねるとともに変化するフィジカル面との戦いであったり、ベテランとして求められるチーム内での役割に日々追われていたのは想像に難くない。
それでも運命に導かれるようにして、二人は育ったクラブで再会を果たした。
「プロになってお互い別の道を歩んできましたけど、ここで一緒にできることは意義のあることだと思います。だけど、この世界、結果が最優先。その結果を獲ってこそ、初めて『一緒にできてよかったね』という話になりますよね」
勇人がこの日、何度も何度も言葉に出した“結果”が指すところはJ1昇格。そして、そのプロセスにおいての役割のイメージはとても明確だ。
「自分と寿人がチーム状況や個々の選手を見たり、選手とコーチングスタッフの関係をしっかり見て、話して、それを選手、コーチングスタッフと話し合って一つに団結できれば。そこを含めての自分たちの価値だと思っています」
プロ選手である以上、ピッチで結果を追求するのは当たり前。そこにオフ・ザ・ピッチでの行動で付加価値をもたらそうとしている。
「ジェフは昔から90分間、格好いいサッカーをするチームではありません。(05年、06年に)ナビスコ杯を2連覇したときもどこのチームよりも走り続けて、どこのチームよりもハードワークをした結果に過ぎませんし、ジェフというチームは本来、そういうチーム。クラブとしての伝統が少しずつ薄れていく中、寿人もチャンピオンを獲った選手だし、そういうものをクラブに還元したいですね」
今季の目的は寿人と同じピッチに立つことでもなければ、寿人にアシストすることでもない。「結果を獲れば、昨年末に自分が悩んで考えた答えが間違ってなかったと思えますよね」。勇人と寿人の唯一無二の目的地は11年ぶりのJ1の舞台である。
文:大林洋平