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フルーツ王国・山梨。甲府の練習場によく見る風景
甲府の練習取材中、急に駐車場が騒がしくなることがある。しばらくすると駐車場から海野一幸会長が練習を見に来ているサポーターに手伝ってもらって、フルーツが入ったケースを何箱も持ってやってくる。その様子を見ているサポーターが声を上げるから、記者は会長の登場に気が付く。
そして、そのフルーツの数が尋常ではなく、桃100~150個とかブドウ50~100房という数なので当然一人では運べない。そして、皆さんが海野会長の車から運び終えるとフルーツが記者エリアにズラリと並ぶ。
これらは海野会長がポケットマネーで近所の農家や農協から買ってくるフルーツで、差し入れの回数はシーズンに5回や6回ではなく、記憶している限りでは軽く20回以上。それを海野会長は17年間続けてきた。金額も相当なはず。このフルーツを選手やスタッフが練習後に食べたり、家族に持って帰ったりする。記者もお裾分けをもらえる。
8月31日は高級ブドウの『シャインマスカット』の差し入れで、約50房。末端(販売)価格を考えると結構な金額だが、選手を応援する気持ちだから金額を聞いても海野会長は言わない。これがフルーツ王国・山梨、ヴァンフォーレ甲府の練習風景のひとつ。
文・写真:松尾潤(エルゴラッソ甲府担当)
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3万人以上来場予定の神戸戦。札幌は「人の心をつかめる試合をしたい」(石川直樹)
明治安田J1第24節までを終えて、名古屋戦が台風により順延となり未消化でありながらも、勝点38で4位という好順位につけている札幌。9月1日の第25節では勝点36で5位の神戸と札幌ドームで対戦をするが、チームの好調さと歩調を合わせるかのように、試合2日前の段階で前売り券が3万枚以上が売れるなど、地元での注目も上昇中。試合当日の札幌ドームは大混雑が予想されるため、多くのファンが座れるよう、公式サイトでは『席詰め』への協力が呼びかけられている。
そしてもちろん、この試合への注目が高い理由には、対戦相手が神戸であることも大きい。アンドレス・イニエスタ、ルーカス・ポドルスキという世界的有名選手と札幌とがガチンコで順位を争う試合を目にしようというファンも、多く詰めかけることが予想される。
多くの視線が注がれるなかでの試合になることについてDF石川直樹(写真右)は「たくさんのお客さんが来たなかで試合ができるというのは選手として本当にうれしいこと。イニエスタ選手を目当てにスタジアムに足を運んでくれる人もいるだろうから、そうした人の心をつかめるような試合をしたいし、結果も出したい」と意欲を高める。
現在、3試合連続得点中の絶好調FW都倉賢も「まずはそうしたスター選手と対戦することができるのも、みんなで努力してJ1にいるからこそ。そしてサッカーの魅力を多くの人に伝えることができるチャンスでもあるので、観てくれた人をしっかりと楽しませる試合をしたい」と語った。単なる1試合ではなく、貴重な場であることを意識している。後半戦、札幌の選手たちは「ACL出場権を狙いたい」と臆することなく口にしている。昨季、16年ぶりのJ1残留を果たしたチームが、大きな成長をしている真最中であるとともに、観衆は新たな歴史が作られる証人にもなり得るといういうことだ。
試合は14時にキックオフされる。ちなみにFW都倉は「できたら、イニエスタ選手とユニフォーム交換がしたい」とも話しており、貴重な1点のみならず、貴重な1枚もゲットするべくハードワークする構えも見せている。
文:斉藤宏則(エルゴラッソ札幌担当)
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総理大臣杯を控えて、一旦の名古屋ラストマッチ。相馬勇紀が磐田戦でゴールを決めたい理由
前節、交代出場で2得点を演出した相馬勇紀が、大学に戻る前の区切りの試合となる磐田戦に向けて意気込みを語った。
早稲田大から特別指定選手として名古屋でプレーする相馬勇紀。9月3日からは大学サッカーで最も重要なカップ戦「内閣総理大臣杯」が、その後、関東大学サッカーリーグが再開されるため、名古屋でのプレーは磐田戦が区切りとなる。
名古屋で練習を始めて、「大学はみんな一生懸命動くので疲れるが、名古屋はプレースピードが速くて頭の部分でも疲れる」と、違いを語る相馬。ゲームメークをガブリエル・シャビエルやエドゥアルド・ネットなど他の選手に任せられる名古屋では、自分の得意なプレーを100%出すことに専念できているそうだ。
6月29日に特別指定に登録されてからケガもあり、初出場はホームで超満員となった鹿島戦。そこでいきなりアシストを決めると、続く横浜FM戦では、終了間際のジョーの決勝点につながるクロスを上げる。前節・浦和戦も2得点に絡むなど、出場した4試合で4つのゴールを引き出し、“後半の切り札”的な存在となっている。中でも浦和戦の4点目のクロスは、DFの背後を狙ったジョーへ、まさにピンポイントクロスを上げ、高い技術と戦術眼を見せつけた。
だが、相馬はそれでも結果を出していると思っていないようだ。「アシストはあってもゴールがない」がその理由。「磐田戦までというのは分かっていたことなので、そこまでにゴールという結果を出しておきたい」と、ラストチャンスとなる今節は気合い十分。ただ「欲に走ると良いプレーができなくなる」と冷静さも持ち合わせている。
しかし、なぜそんなにゴールという結果を求めるのか。相馬の解は「新しい選手が周りに信頼されるためには結果を出さないとダメ。結果を出すことでパスが来るし、良いところに走ってもらえる。やっとジョーからもパスが回ってくるようになった」と、実感を込めて結果の重要性を説いてくれた。
関東大学リーグで早稲田大は現在首位。「大学のリーグ戦で優勝を早く決められれば、また名古屋に参加できる」と、大学でも全力プレーでチームを引っ張りたいと言う相馬。
果たして今節、自分の思うような結果を残して、心おきなく大学に戻れるだろうか。
文:斎藤孝一(エルゴラッソ名古屋担当)
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「お前のポジションはないよ」(リ・ヨンジ)。渡辺皓太の代表での活躍が、東京V内の競争に火をつけた
東京Vでインサイドハーフのレギュラーとして開幕から第28節までスタメン出場を続けていた渡辺皓太が、アジア大会に出場するU-21日本代表に招集されてチームを離れている。U-21代表は渡辺の活躍もあって決勝戦に進出したが、もちろん渡辺のいない状況は、ここまで出場機会の少なかった東京Vの選手にとってチャンスでもある。リ・ヨンジなどは渡辺が旅立つ前から、「まだプロ2年目の選手がチームの中心になっているのは僕らとしても悔しい。皓太が帰ってきても『お前のポジションはないよ』ってことにしないと」と、渡辺本人に聞こえるように言っていたほどである。
井上潮音、佐藤優平、リ・ヨンジと代役候補がいる中で、その座を射止めたのは佐藤だった。その佐藤は前節の千葉戦で、劣勢の流れを変える同点ゴールを、奈良輪雄太のクロスに飛び込み豪快なダイビングヘッドで決めた。「これで優平くんは(今季計)4点、俺は3点。でも皓太は2点。『インサイドハーフはアシストよりゴールだよ』と皓太には言いたい(笑)」(リ・ヨンジ)と話した。明日の金沢戦の結果によっては本当に渡辺がすんなりレギュラーに戻れるとは限らなくなってきたかもしれない。
ロティーナ監督はインサイドハーフについてどう考えているのか? 必要な資質について聞いてみたところ、「技術があり、両方のエリアで仕事ができること。ボックス・トゥ・ボックスができる選手」だと答えた。現在のところゲームメイク役の梶川諒太、攻撃役の渡辺もしくは佐藤という組み合わせに落ち着いているが、「それが理想の組み合わせというわけではない」という。「攻撃的な選手もいれば、守備で貢献できる選手もいる。よりゴールを奪える選手もいる。それぞれの持っている特徴を生かし、状況に応じてチームに貢献できる選手を選んでいく」のが指揮官の考えだ。そして、こう付け加えた。
「タイプどうこうの前に、そのポジションには最も攻守において貢献できる選手を置くことにしている」
ロティーナ戦術において、インサイドハーフは生命線だということがこの一言だけでもよく分かる。渡辺の不在とジャカルタでの活躍は、間違いなくその争いに高いレベルで火を付けた。来週になるが、彼の凱旋が楽しみだ。
文:芥川和久(エルゴラッソ東京V担当)
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愛弟子のU-21日本代表・渡辺皓太を称賛した東京V・ロティーナ監督。「彼が最も生きるのインサイドハーフ」
UAEを1−0の辛勝で振り切り、アジア大会男子サッカー決勝に進出したU-21日本代表。一進一退でスコアレスの苦しい展開が続く中、守備への素早い切り替えからボールを奪い、上田綺世の決勝ゴールをアシストしたのが東京Vの渡辺皓太だった。ロティーナ監督も「すごく良いプレーだったと思う。奪うプレー、パス、ともに素晴らしかった」と愛弟子の大仕事をたたえた。
「皓太の試合はテレビで見ている」というロティーナ監督は、彼のここまでのプレーについて「ボランチとしてよくやっている」と評価するが、「中盤で守備ができ、攻撃も高いレベルでこなせる。彼の特徴が最も生きるのはインサイドハーフだと思う」と付け加えた。ただ、森保 一監督の率いる今回のチームにインサイドハーフのポジションがないことは、スペインから来た知将も承知している。「シャドーで使えと?」という質問には、多少の迷いを残して首を振った。曰く、「高い位置で相手を背負ってボールを受ける場面が多くなるが、その時のプレーには課題がある。シャドーの選手はターンするだけでなく、そこからゴールに向かっていく仕事をする必要がある」と。
森保監督は渡辺を、松本泰志や神谷優太ら攻撃的なボランチの相方となるバランサーとして起用しているフシがある。初戦のネパール戦ではよく攻撃に絡み縦パスから次々にチャンスを演出し、決勝ゴールの起点にもなったが、試合を重ねてチームの形ができてくると次第にそうしたプレーは減っていった。その辺りにおそらくロティーナ監督も見ていて多少の歯がゆさがあるのだろう。短い取材時間の中で何度も「彼はインサイドハーフの選手だよ」と繰り返した。
ともあれU-21日本代表は決勝に駒を進めた。グループリーグ第2戦以外はすべてスタメンフル出場しているだけに、森保監督からの信頼も厚いのだろう。「守備もやって、ゲームを作って、ラストパスも出せて、ゴールも決める」。渡辺の理想を、決勝戦で韓国相手に見せてもらいたい。
文:芥川和久(エルゴラッソ東京V担当)
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福岡、9月決戦のキーマンは“ネオ・ダイスケ”。進化した石津大介に注目
福岡・石津大介の表情がとても明るい。
今季、石津は上々のスタートを切った。岐阜との開幕ゲーム、開始5分で自身とチームの今季初ゴールを挙げて勝利の立役者となると、以降、第8節まですべて先発出場を果たした。
しかし、第9節・山口戦からはベンチが石津の“定位置”に。当然、表情は沈んでいった。
長く暗いトンネルに入った石津だったが、やがて出口の光が見える。第25節・徳島戦から前節の新潟戦まで5試合連続で先発を勝ち取った。中でも、大きなきっかけは第27節の甲府戦だ。
試合は松田力の二つのスーパーゴールで2-1の勝利を物にしたが、石津は74分にピッチを退くまで攻守でとにかくよく走った。特に守備での貢献度が高かった。甲府戦を振り返った石津は「あれくらいの守備をスタンダードにしていかないと先発では出られない」と話し、それまでの『自分は攻撃の選手。得点に絡むなど、そこで特別な働きをしてこそ自分』との考えから『守備もこなした上で攻撃でも光る自分へ』というスタンスへと変化した。
第28節の水戸戦では石津の守備力がさらに際立った。縦関係にある森本貴幸と息の合ったプレッシングで水戸のビルドアップを分断。暑い中での走力も素晴らしかったが、頭脳的なプレーが効いた。水戸の若き司令塔である小島幹敏が「とにかくうまかった」と舌を巻いたのは水戸のボールの運び方をコントロールするポジショニングや寄せの間合いのメリハリといった石津の頭脳的な守備技術だった。
そして新潟戦。石津は守備のタスクをしっかりとこなした上で貴重な先制ゴールと、ドゥドゥのゴールもアシストした。
石津の先発起用を続ける井原監督にその理由を尋ねると明快な答えが返ってきた「攻撃では決定的な仕事を、守備では献身的は働きを、その両方ができるから使っている」。
今節の大分を皮切りに上位陣との対戦が続き、さらに計7試合を戦う、福岡にとっての“9月決戦”のキーマンは間違いなく『ネオ・ダイスケ』だ。
文・写真:島田徹(エルゴラッソ福岡担当)
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千葉の主将・佐藤勇人。「どうにかしたい」という言葉に込められた思い
25日の前節・東京V戦が今季リーグ戦初のフル出場となった千葉の主将・佐藤勇人。ただ、結果は奮闘実らずに2連敗。「自分に求められているのはチームの結果。(先発は)予想してなかったが、チャンスがきて、勝ちにもっていくことができなかったのはうーん……。もちろん悔しさはありますが、不甲斐ない部分ですね」と唇を噛む。
東京V戦は失点した28分まで千葉ペースだった。2トップがビルドアップをうまく制限し、予測に長けた佐藤勇を中心にボールをうまく回収。「前から守備をしているときの方が間違いなく、自分たちに合っているし、うまくいくことが多い。それは続けるべきだと思います」と振り返る。「ただ……」と続け、「どのぐらいのプレスをかけて、どのぐらいラインコントロールするのかはうまく調整した方がいい。前が下がるというよりは、プレスにいくけど、ラインを上げすぎずにうまく上げるというか……。それができるようになるとかなり変わってくると感じています」と止まらない失点に悩む守備の光明としてより高次元の連動を挙げる。
16位に沈む千葉は8月未勝利に終わり、浮上のきっかけをつかめていない。「みんなもがいている。だからこそ目の前の試合に一つ勝って、そこからグッともっていきたいと思っているが、最初の部分でつまづいている」ともどかしさを吐露。ただ、戦績から想像するほど、チームの雰囲気は悪くない。「お互いをすごくリスペクトして、いい関係で、年齢、国籍関係なくやれている。だからこそ、この順位がもどかしい」。そして9月1日に控えるのは苦手アウェイの山口戦。「どうにかしたいと思っています」。自分に言い聞かせるように吐き出した最後の言葉にこの日一番の力がこもった。
文:大林洋平(エルゴラッソ千葉担当)
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大宮、岐阜のプレッシャーを剥がす術は? 石井正忠監督が語る展望
9月1日に大宮がアウェイで対戦する岐阜との前回対戦は、今季全体をとおして見ても最も苦しいゲームの一つだった。岐阜の素早い攻守の切り替えとプレッシング、そして淀みないサイドアタックに圧倒されて0-2の敗戦。苦い記憶はいまもチームに刻まれている。
「ボールを奪ったときの自陣でのミスだったり、攻撃に移ったときの失い方が悪かったり、自分たちのミスで相手にボールを渡すことが多かったと思います」と石井正忠監督。後手に回り続ける展開だったが、大宮としては当時と違うところを見せたいところ。指揮官は攻撃で前に運ぶ部分で、前回対戦とは異なる姿を見せることができると踏んでいる。
「岐阜さんは切り替えが速くて、プレッシャーを掛けに来て相手のミスを誘うところはある。自分たちのビルドアップや相手陣内にボールを運ぶところは前回対戦とは違う部分があるので、そこで相手のプレッシャーをしっかり剥がして、攻撃の形を作ることはできるんじゃないかと思っています」
最大の根拠は「いまは前の動き出しがあると良い攻撃ができますし、前を選択するプレーは以前より多くなってきた」(石井監督)という点。キーマンは前回対戦後にレギュラーに定着した富山貴光と、得点ランクトップを維持する大前元紀の2トップだろう。岐阜のプレッシャーに屈しない攻撃を見せ、前回対戦のリベンジを果たしたい。
文:片村光博(エルゴラッソ大宮担当)
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山口のオナイウ阿道、キャリア初のハットトリック達成し、古巣・千葉戦へ
山口のオナイウ阿道がキャリア初のハットトリックを達成した。
J2で得点ランキングトップの大前元紀を擁する大宮と対戦した前節。オナイウは26分に7試合ぶりの先制点となるゴールを決め、68分、84分にもゴールを決めた。これで今季は18ゴールに到達し、大前との得点数の差は『1』に縮まった。
しかし、試合はアディショナルタイムに追いつかれて4-4で終了。つかみかけた10試合ぶりの勝利を逃した。オナイウは「個人的には良かったかもしれないけど、勝てなかったので。最終的に追い付かれてしまったし、試合の終わらせ方の部分で少し足りない点があったのではないかと思う」と振り返った。
今節の千葉戦は、オナイウにとって古巣戦となる。前回対戦のJ2第17節では千葉のホーム・フクアリできっちりと恩返し弾を決めており、今節も「点が取れれば一番いい」と意欲を示すが、「今はやっぱりチームが勝つことが最優先。その中で僕だったり、前線の選手だったりが点を取ることが、試合に勝つために必要。ゴール以外の部分でも貢献しないといけない」と勝利を欲し、11試合ぶりの白星を目指す。
文・写真:松原純(エルゴラッソ山口担当)
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[本日のエルゴラッソ1面]前進
[AFCチャンピオンズリーグ]
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