昨季J3で2位となり、今季初めてJ2を戦っている岩手。
その岩手を20年から率いるのが、秋田豊監督だ。
今回はあまり語られてこなかった“監督:秋田豊”に迫るため、本人にインタビューを敢行した。
選手獲得の狙い、自身に起こった変化、監督としての信念…。
かつて日本屈指のヘディンガーとしてならした男の“頭の中”を覗いてみよう。
聞き手:髙橋 拓磨 取材日:4月25日(月)
“落ちる”ことも大事―秋田監督は現役引退後、すぐに指導者の道を歩み始めましたが、いつごろからその道を意識していたのですか?「選手としてピークだった27歳くらいから準備していて、すごく現実的に考え出したのは37歳くらいです。現役を引退してからもサッカーに携わりたい、サッカーを伝えていきたいという思いがあって、そのころから手笛の練習をしたり、パソコンができなかったのでそのやり方を学んだり。そういうところから始めました」
―最初に率いたのは京都(10年7月~10年12月)でした。「(就任したときは)フィジカルが全然ダメだったので、それを戻すのに1カ月かかりました。その間もなかなか勝てず、今度はメンタルが落ちていって。フィジカルの状態がよくなったあとはサッカー自体も変わっていったのですが、悪い流れを変えるのは難しかったです。こっちのシュートがポストに嫌われたり、『そんなのが入るの?』という相手のシュートが決まったり。そういうこともあって、うまく(いい流れに)乗れなかったというのはありました」
―秋田監督自身のメンタルの状態はいかがでしたか?「いや、もうヤバかったですよ。でも、それは選手時代からあったので。試合でうまくいかなかったときはすごく悩むし、考え込むし。うつ状態ではないですが、試合のシーンが走馬灯のように流れ続けるような。ただ、そういった経験があるので、落ちることの大事さも分かっていました。それが変わろうとするタイミングやきっかけにもなるんです。その過程を経ることで、次の練習では逆にフレッシュな状態で取り組める。もちろん、切り替えは簡単なことではありません。それでも、フレッシュになれるような人と会うなど、元気になれることに意識的に取り組んで、自分をいい状態にもっていっていました。京都で監督をしていたときも、同じような“もっていき方”をしていましたね」
―秋田監督は現役時代、多くの監督の下でプレーされました。特に影響を受けた人や、印象的な人はいますか?「全員に影響を受けていると感じます。日本代表の監督をする人は何かしらのストロングがあるから、そういうポストに就いているわけですが、すべてをバランスよく持ち合わせている人は多くないと思います。(フィリップ・)トルシエであれば、ラインコントロールと組織で戦い、選手たちに大きな力を発揮させる。ジーコは『戦術がない』という言い方をされていましたが、まったくそんなことはなくて、本当はすごく細かい。でも、日本代表監督のときは“代表選手なのだから、選手たちに任せながらやる”というやり方を選んだのだと思います。岡田さん(岡田武史)は一番バランスがいい監督でした。メンタルのもっていき方、フィジカル、チーム戦術にも長けていて、一番いいサッカーをしていたと思います。そういったこれまでに指導していただいた方のいい部分を見習い、自分の仕事に生かしていくことは常に意識しています」
選手獲得の基準は特長二つ以上―監督業についてもお聞きしたいのですが、重要になってくるのはどんな部分ですか?「最初は選手を選ぶところが重要です。なぜなら、それによってどんなサッカーをするかが変わるからです」
―選手の獲得についてはどのような基準を設けていますか?「特長が二つ以上ある選手が理想的だと思っています。2020シーズンから岩手で監督をやらせてもらっていますが、これまでの補強もこの考えを軸にしておこなってきました。ウチには特長のある選手、いっぱいいるでしょ?」
―思い当たるふしがある選手ばかりですね。「下手だけど速いとか、高いとかね」
―そういった選手を獲得する狙いや思いはどういったものなのでしょうか?「根本には育てるというのがあります。選手の能力の中にあるネガティブな部分の水準を上げることで、ストロングポイントがより強みを増す。例えば、ウチのポール(・ビスマルク)は足が速い。ジャンプ力もある。ただ、ヘディングやキックの技術的なレベルは高くない。このネガティブなところを平均以上に上げられれば、いいところが一層強調されて、すごい選手になる。そういうことを狙っています」
―岩手は予算的にスモールクラブですし、ましてや今季J2に昇格したばかりで、獲得できる選手も限られてくると思います。秋田監督の哲学や志向するスタイルもある中、どのようにチーム作りを進めていこうと考えていますか?「基本的にはやりたいサッカーとかスタイルというのは、“勝つサッカー”です。縦に速いサッカーだけがすべてではないですし、ポゼッションだけがすべてでもありません。起用できる選手の中で、勝つ可能性を上げるために何をチョイスするか。例えば、いまのグルージャでポゼッションサッカーをしてもおそらく勝てなくなってしまいます。どんな相手に対しても勝てるようにするためには、どういうサッカーをすべきなのか。その中で選手の個性が発揮できる仕組みを意識しながら戦術やシステムを編み出す。そういうところを全体像としては考えながら、チームの構築を進めています」
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