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[書評]読むサッカーvol.26 『元ACミラン専門コーチのセットプレー最先端理論』
セットプレー未開拓領域の可能性を説く
現代サッカーにおいてセットプレーの重要性が増しつつあることは否定のしようがない。アトレチコ・マドリーのようにセットプレーからの得点が戦略的に大きな部分を占める強豪も存在する。
だが、欧州名門クラブでセットプレー専門コーチも務めた著者・ジョバンニ・ビオは「セットプレーにはいまだ開拓されていない大きな可能性が秘められている」と主張し、本書で実際にいくつかのアイディアを披露している。代表的なセットプレーであるCKやFKだけでなく、ゴールキックやスローインも含めて、選手の配置一つひとつがどのような効果をもたらすのか、ロジカルかつ説得力のある説明がなされていることが印象的だ。
一例として攻撃時のCKとFKをピックアップすると、“キッカー”、“ゴール前に入る人数”、“カウンターに備える人数”のバランス一つとっても、“ゴール前に入る人数”を増やすだけで相手が守備に意識を向けざるを得ない状況を作り出そうとする。リスクマネジメントについても、最初から後方に選手を残すのではなく、ゴール前に入らせて相手を警戒させたあと、自陣のスペースを埋めに戻る動きを紹介するなど、完全なマイボールで開始できるセットプレーだからこその“先手必勝”の精神にあふれている。
オープンプレーでは敵陣に多くの人数を割いて圧力を掛け、相手が前に出られないようにすることが一般的な戦術・戦略と化しているが、多くのチームにおいてセットプレーでは攻撃時ですらリスクを排除する方向に傾いていることは否めない。だからこそ本書では「サッカーの戦術がこの30年間に大きな進歩を遂げた一方で、セットプレーには革新と呼べるような変化は起らなかった」という主張がなされているのだろう。
また、全編をとおして嘆かれているのが、セットプレーの練習に割かれる時間の少なさだ。多彩なアイディアも、チームに浸透させるための時間とトレーニングのクオリティーがなければ実践には移せない。全世界的に過密日程が常態化し、オープンプレーの練習だけをギリギリ詰め込んでいるチームも多いだけに、実情としてセットプレーを突き詰めることはできなくなっている。
しかし本書を読めば、時間的な制約という如何ともしがたい壁がある中でも、セットプレーの可能性をなんとかして引き出せないものかという思いが湧き上がってくる。日ごろのトレーニングにどうセットプレーを組み込むかという解決策も提示されており、例えばJリーグにおいてセットプレーが新たなステージに達するようなチームが生まれれば、分析の応酬によって全体的なセットプレーのレベルもグッと上がっていくのではないだろうか。
著者の紹介するユニークかつロジカルなセットプレーのバリエーションに触れれば、それまで漠然としか見えていなかったサッカーのイチ側面が、より魅力的なものに見えてくる。先入観を排して本書を手に取ることをおすすめしたい。
文:片村 光博(エルゴラッソ大宮担当)著者:ジョバンニ ビオ(GIOVANNI・VIO)/著者:片野 道郎(かたの・みちお)
発行:2月7日/出版社:ソル・メディア/価格:1,400円(本体価格)/ページ:208P