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[書評]読むサッカーvol.32 『グアルディオラ総論』
変化し、成長する存在としての“ペップ”。グアルディオラ研究の決定版
13-14年から15-16年までの3シーズンにおいて、バイエルン・ミュンヘンを率いて獲得したタイトルは国内外合わせて『7』。公式戦161試合で1試合平均70.47%のボール支配率を誇り、87.9%のパス成功率を叩き出した。ドイツ・ブンデスリーガに限れば102試合を戦って82勝9敗11分、254得点58失点(以上、第四章より)。驚異的な数字が並ぶ。
“ペップ”こと、ジョゼップ・グアルディオラ監督が残したこれら偉大なる成績の背景は、しばしば誤解を持って伝えられていると本書『グアルディオラ総論』は諭す。
07年にバルセロナBで監督業を始めてから、選手としてもプレーしたバルセロナトップチームで数々の栄光を得たペップ。充電期間を経て、彼が次なる挑戦の場に選んだのは、現役時代にプレーしたことのない、ドイツのタレント集団だった。実績十分の監督が、すでに強いチームを率いる。しかしそれが、強くて当たり前、というだけでは終わらない。このクラブでペップはさまざまな驚きを、新鮮さとともにもたらした。
ボールと試合を支配し、相手を圧倒するバイエルン・ミュンヘン。しかしそれは決して、バルセロナのやり方をそのまま持ち込んだものではない。あるいはスペイン人選手を獲得したからといって“スペイン化”したわけでもない。何より、ペップがそれまでのやり方をバイエルン・ミュンヘンに押し付けたのではないということを、この『グアルディオラ総論』は、さまざまな角度から読者に伝えている。
誤解が生じてしまう理由の一つには、ペップが個別のインタビューをもって自らを表現しないことがある。だが、この『グアルディオラ総論』では、『キミにすべてを語ろう』でペップの側で話を聞くことを許された者として最大限の仕事を果たしたマルティ・ペラルナウ氏が、再び代弁者としての使命を全うしている。この学識豊かな著者と、フットボリスタ誌でもおなじみの木村浩嗣氏という、これまた教養の深い訳者によって、日本の読者にペップがドイツで何を成し遂げたのかが伝えられている。
この本をとおして最も強く訴えられているのは、バイエルン・ミュンヘンが変わったことよりも、ペップ自身が変わっていったことだった。「学ぶことに取り憑かれている」(第八章より)という人物が、異国での学び、そしてチェスプレーヤーやラグビーの監督、登山家らとの出会いをとおして変わっていくさまが、著者の言葉、そして哲学者らの金言が散りばめられた文章によって伝えられている。ドイツでの挑戦を経て成長したペップが、イングランドの地で次はどう変わるのか。読み終えて、早くも続編が楽しみになる。
文・板垣 晴朗(エルゴラッソ仙台担当)著者:マルティ ペラルナウ(MARTI・PERARNAU)
発行:5月16日/出版社:ソル・メディア/価格:1,600円(本体価格)/ページ:400P
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