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[書評]読むサッカーvol.9 『サッカー通訳戦記』
すべての通訳が挑戦者であり、開拓者である
ドキュメンタリー番組が10本詰まったような一冊、それが本書『サッカー通訳戦記』である。『プロジェクトX〜挑戦者たち〜』と『プロフェッショナル 仕事の流儀』、『情熱大陸』を足して『3』で割った本とでも言おうか。
取り上げられているのは、千葉でイビチャ・オシム監督らの通訳を務めた間瀬秀一氏(現・秋田監督)、浦和でホルガー・オジェック監督らの通訳を務めた山内直氏、大分やFC東京などでランコ・ポポヴィッチ監督の通訳を務めた塚田貴志氏など、10人の通訳。彼らがなぜ通訳を志し、どのように語学を身に付け、そしてどんな苦労をして現場で働いてきたかが描かれている。エピソードは十人十色だが、共通しているのはすべての通訳が挑戦者であり、開拓者であるということ。
ジーコの通訳を務めた鈴木國弘氏はブラジルサッカーに憧れるあまり、幼少期にブラジル大使館のサッカー部に潜り込んだ経験を持つほど、開拓精神にあふれる子どもだった。その後、住友金属でジーコの通訳として活動を始めると、日本とブラジル、アマチュアとプロの違いを前に、辞職を決意するほど悩んだ。そして“神様”と崇めたこともあるジーコと衝突しながらもJリーグ草創期のただ中で、通訳はどうあるべきかを確立していった。
別の通訳はブラジル留学中に強盗団に誘拐された経験を持つ。選手として空爆直後のセルビアにわたり、引退後も指導者資格取得のため現地に残って勉強を続けた通訳もいれば、「最悪の土地」と呼ばれるほど大気汚染が進んでいたドイツの街で、企業通訳を務めていた者もいる。
普段は日陰の存在である通訳。そこにスポットライトを当てるとサッカーを取り巻く新たな一面が浮かび上がる。特にJリーグ誕生以前、黎明期に新たな道を拓いてきた挑戦者の言葉は興味深いだけでなく、例外なく感嘆させられる。読後には間違いなく、中島みゆき、スガシカオ、葉加瀬太郎の曲が聞きたくなる。
文:村田亘(エルゴラッソ編集部)
著者:加部 究(かべ・きわむ)
発行:5月18日/出版社:カンゼン/価格:1,600円(本体価格)/ページ:248P
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