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[書評]読むサッカーvol.18 『歓喜へ』
決して順風満帆ではなかった。“雑草”が自らの言葉で振り返る半生
著者・山岸範宏は今季J2リーグ戦第5節・清水戦でJリーグ通算200試合出場を達成したが、それを目前に行われた記者の囲み取材でこう答えている。「少ないですね、年数やってるわりには」。表情は苦笑いだった。
確かに、ビッグクラブである浦和に在籍した13年半という期間の長さと、そこで背番号1を付けてタイトルも手にしているという実績、知名度を思えば、「少ない」という感覚を持ったのは本人だけではないだろう。現在所属する山形では、14年6月の加入以降のリーグ戦すべてに出場し (今季のJ2第32節・徳島戦の累積警告による出場停止がリーグ戦では初の欠場)、守護神として君臨しているが、その山形での出場数を合わせての200試合出場達成は、彼のプロサッカー人生が決して順風満帆ではなかったことを物語る。
実際、浦和では都築龍太氏とのポジション争いがあり、都築氏が移籍したあとも後輩の加藤順大(現・大宮)にポジションを奪われたり、山形へ移籍することになる14年には、西川周作の加入でベンチからも外れることになった。
「プロは試合に出てナンボ」という見方もある。しかし、練習場での山岸を見ていると、“出場数”だけがその選手の価値を決める物差しではないと強く思わされる。テンションの高さ、真剣味、練習量の多さ。浦和での激しいポジション争いの中でも、毎日自分を限界まで追い込むその姿勢を貫いてきたに違いない。人生に陰陽があるとするなら、陰の時期にこそ、その強さが引き立つすごみがある。
本書では、自分を雑草にたとえる山岸が自らの半生を、自らの言葉で振り返る。サッカーのエリートとしてではない道を歩んで来た中で、「強いチームでなくても、本人次第で十分に上達できる」、「自分が『いまある環境』の中で何ができるか、どんな姿勢で取り組み、努力を続けられるかがもっとも重要だと思う」との結論に達し、それをいまも実践している。14年のJ1昇格プレーオフ準決勝・磐田戦での劇的なゴールも、そうした文脈で見れば“奇跡”とはまた違う輝きを放つ。
巻末には、浦和の土田尚史GKコーチを交えて実現した、かつてのライバル都築氏との鼎談もたっぷりと収録されている。
文:佐藤円(エルゴラッソ山形担当)著者:山岸 範宏(やまぎし・のりひろ)
発行:9月30日/出版社:KADOKAWA/価格:1,600円(本体価格)/ページ:208P
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