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優勝・昇格のためならホーム最終戦でも「引き分けでOK」。歓喜を呼び込んだ札幌の割り切る強さ
J2最終節の金沢戦に引き分け、J2優勝ならびに5年ぶりのJ1昇格を決めた札幌。
歓喜の瞬間を勝利で飾ることはできなかったが、戦前から引き分け以上で優勝・自動昇格決定という状況だったため、「まずは絶対に負けない、その中で勝機を見いだしていくというかなり堅いゲームになった。もちろん勝って喜びを爆発できれば最高だったと思うが、42試合戦ってきた中で順位が決まるのがリーグ戦なので最後は引き分けでもOKという試合になった」と四方田修平監督は語る。
同様に主将の宮澤裕樹が「終盤に自陣でパスを回すような時間帯もあって、その中ではもちろんいろいろなことを思ったりもしたが、それもやはりしっかりと昇格を果たすために、チームとして全力を果たした中でのこと」と話せば、エース・都倉賢も「ある意味では最も勝負にこだわったからこそ、ああいう試合展開になったということ。シーズンをとおして僕らが最も勝ち点を積み上げたチームだという事実には誇りを持っていい」と語った。
リスクを冒してこの試合に勝ちにいくよりも、優勝・昇格というシーズンをとおしての最大目標をより確実に達成するために、引き分けという選択をした札幌。割り切って現実策を執ることができるその潔さは、劣勢の試合展開でも確実に勝ち点を積み重ねてきた今季の札幌の強さを象徴していたのかもしれない。
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清水が9連勝でJ1復帰! 【小林監督、金子、チョン・テセ、大前コメント】
前節終了時点でついにJ1自動昇格圏の2位に浮上した清水。J1昇格の懸かった最終節はアウェイで徳島と対戦した。
清水は、勝ち点で並ぶ3位・松本に得失点差で大きな差をつけているため、勝利すればJ1自動昇格は確実な状況。さらに首位・札幌の結果次第ではJ2優勝の可能性も残っている、まさに大一番。アウェイにもかかわらず、約4,000人の清水サポーターも決戦の地に駆け付けた。
清水は試合序盤、細かなミスが目立ったが、29分にセットプレーから均衡を破る。29分、大前元紀のFKを犬飼智也が頭で合わせて、貴重な先制点を奪取。しかし、徳島も意地を見せ、35分に藤原広太朗が決めてすぐに同点に追い付いた。
決勝点が生まれたのは73分。チョン・テセが右サイドから上げたクロスに、途中出場の金子がダイレクトで合わせ、清水が再びリードを奪った。その後、徳島はパワープレーをしかけ同点を狙ったが、清水の集中力は最後まで途切れず、そのまま2-1で試合終了。落胆のJ2降格から1年、清水が最終節でJ1復帰を決めた。
今季から指揮を務める小林伸二監督はこれが大分(02年)、山形(08年)、徳島(13年)に続く、自身4度目のJ1昇格。昇格請負人に率いられたチームはJ2優勝こそ達成できなかったものの、終盤を9連勝で駆け抜け、堂々のフィナーレを迎えた。
~試合後コメント~
小林 伸二監督
声援が選手を後押ししてくれた
「(大前)元紀を代えて、金子が良い仕事をしてくれた。最後の10分はバタついてしまったが、若い選手が出ている中で良い経験になったと思う。こういう経験をチームでも個人でもしながら、J1で頑張っていければいいなと思っている。今日の思いというのをいつまでも忘れずに、J1で落ちることがないように、しっかり準備していきたい。
こんなにも多くのサポーターがアウェイに来てくれて、感謝している。あの声援が選手を後押ししてくれたと思う。私の声は聞こえないが、サポーターの声はしっかり聞こえているので(笑)。今日は本当に感謝している。ありがとうございました」
■MF 30 金子 翔太
今日はやってやろうと強く思っていた
「(ピッチに入るときは)元紀くん(大前)と代わるというのは、チームのエースと代わるということなので、すごく責任もあるし、緊張もしていたが、今日はやってやろうと強く思っていた。(決勝ゴールのシーンは)交代してすぐに、(チョン・)テセさんから非常に良いボールが来た。絶対決めないといけないボールだったし、サポーターの皆さんのいる側のゴールだったので、すごく気持ち良かった。
(自らのゴールでJ1昇格を決めたが)今日はそういう形になったが、チームの全員で42試合を戦ったし、今日来ていない選手も一緒に戦っていた。サポーターの皆さんと一緒につかみ取った勝利だと思うし、サポーターの皆さんにも本当に感謝している」
■FW 9 チョン テセ
この1週間毎日、今日の試合の夢を見た
「(試合直後は涙も見せたが)本当にキツかった。特に今週1週間は、自分がエースという立場で、7戦連続で点を決めていたので、なおさら自分にボールが集まってくるし、(自分が)決めないと絶対に勝てないと思っていた。そういうプレッシャーの中で、この1週間毎日、今日の試合の夢を見ていた。(夢の中で)勝つときもあるし、負けるときもあるし、(北朝鮮代表として)W杯出場を決めたときと同じような感覚だった。
不安もあったが、今日スタジアムに入ったときに、エスパルスサポーターの数を見て、不安が勝利の確信に変わった。この1年、サポーターはどこに行ってもホームの雰囲気を作ってくれていたし、こういう形で結果で恩返しすることができた。どんな言葉を並べるよりも自分たちの気持ちを伝えられたと思う。
(J2得点ランキング1位となったことについて)26点というのはキャリアハイだし、アシストも10ポイントできたので、自分の中でも出来過ぎの結果。J2というカテゴリーということもあるが、チーム全体のクオリティーが高くて、ゲームを支配する試合が多かったからこそ、得点を決める機会が多かった。自分でもポジショニングとか動き出しは意識して研究していたが、そこに良いパスをくれたチームメートに感謝したい」
■FW 10 大前 元紀
みんな本当に勝利への欲が高かった
「(1年でのJ1復帰を果たして)うれしい。けど、優勝して上がりたかったので、そこはちょっと悔しいが、みんなが喜んでいる姿を見たら、昇格できて本当に良かったなと思った。(今日の試合は)内容より結果とは思っていたが、危ないシーンもあった中でも自分たちがゲームをコントロールできていたと思うし、先制点を取れたのも良い時間帯だった。失点はいらなかったけど、交代した選手がしっかり点を取れたのは良かったと思う。
(今季は)もっと初めのころに勝っていれば、こういう結果にはなっていなかったと思うが、切羽詰まって負けてはいけないという状況になってから、みんな本当に勝利への欲が高かった。引き分けでは駄目だという意志の元でみんなやれていたので、9連勝して自動昇格できたのだと思う。毎回アウェイでもホームのような雰囲気を作ってくれているサポーターには本当に感謝したいし、今日は静岡で応援してくれている人もいっぱいいる中で、勝てたことは良かった。(J1での来季に向けて)難しいシーズンになるかもしれないが、そういうシーズンにしないようにみんなで準備して、しっかり戦っていきたい」 -
北九州がJ3に降格。「勝負強さ、粘り強さが足りなかった」(柱谷幸一監督)
J2最終節が行われ、21位の北九州が山形に0-3で敗れ、最下位に転落。来季、J3への降格が決定した。札幌と0-0で引き分け、21位に浮上した金沢は栃木とJ2・J3入れ替え戦に臨む。
J3降格を受け、北九州の柱谷幸一監督は「この結果におけるすべての責任は、監督である自分にあると思います。いまは本当に申し訳ないという気持ちでいっぱいです」と力なく話した。降格の原因について問われると「まず、自分自身か監督としてしっかりとチームを立て直せなかったというのが一つと、けが人が今シーズンは非常に多かった。ただ、その中で代わりに入ってくる選手に対して良いサポートをしてあげられなかったというところと、単純に勝ち点でいうと、アディショナルタイムでの失点が多くて、失った勝ち点が多かったので、そういったところでの勝負強さ、粘り強さが足りなかったのかなと思います。ただそれもすべて、現場の総責任者である監督、自分自身の責任だと思っています」と話した。
北九州は来季、新スタジアムで戦うが、その舞台はJ3となってしまった。
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札幌がJ2優勝&5年ぶりのJ1昇格決定!
J2最終節が14時に一斉キックオフとなり、引き分け以上でJ2優勝&J1昇格が決まる首位・札幌は最下位・金沢と対戦。試合はスコアレスドローに終わったものの、確実に勝ち点を積み重ねた札幌がJ2優勝ならびに5年ぶりのJ1昇格を決めた。
今季最多の33,697人が札幌ドームに詰めかけた一戦。J2残留が懸かった金沢も積極的にしかけてくる中、試合は両チーム交互に敵陣に進入する目まぐるしい展開に。しかし、スコアが動かないままゲームが推移すると、終了間際には、引き分け以上で良い札幌と、他会場で残留争いのライバル北九州が劣勢のため引き分けでも最下位脱出となる金沢ががともにペースダウン。リスクを軽減し、時計の針を進めていった。
そして0‐0のまま試合終了。歓喜の瞬間を勝利で飾ることはできなかったが、札幌がJ1昇格とJ2優勝を達成。金沢もひとまずはJ2・J3入れ替え戦に回る21位の座を確保して今季のリーグ戦を終えた。
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鹿島の鈴木優磨が驚異的な回復力で練習に合流
天皇杯で右肩を痛めて別メニューでの調整が続いていた鹿島の鈴木優磨が全体練習に合流した。
12日の天皇杯4回戦・神戸戦でDFと接触。16分で交代を余儀なくされ、全治3~4週間と見られたが、驚異的な早さでチームに戻ってきた。20日の練習の途中からは主力組の右MFに入ってプレーした鈴木。MFだけでなく本職のFWとして、途中出場で流れを変えられる選手なだけに、23日のチャンピオンシップ準決勝・川崎F戦に向け貴重な攻撃のオプションとなりそうだ。
クラブハウス練習場には“SPIRIT OF ZICO”の弾幕が掲げられ、数々のフラッグが振られた。サポーターが作る雰囲気に背中を押された選手たちは、研ぎ澄まされた集中力を発揮して練習を行った。
文:田中滋(エルゴラッソ鹿島担当)
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大分が1年でJ2復帰。終盤、怒涛の5連勝でJ3優勝を決める
J3最終節が行われ、首位の大分が鳥取を4-2で下し、J3優勝とJ2昇格を決めた。
大分は昨季、J2で21位となり、町田とのJ2・J3入れ替え戦に回ったがそこで敗れ、J3に降格していた。今季は片野坂知宏氏を監督に迎え、序盤は4試合勝ちなしなどで10位にまで転落する時期もあったが、最後は5連勝でJ3優勝を決めた。
大分と優勝を争っていた2位・栃木は最終節、アウェイで盛岡に2-2で引き分け、J2・J3入れ替え戦に臨むこととなった。
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[書評]読むサッカーvol.21 『ことの次第②』
フットボール実況の第一人者が語る、魅惑のサッカー四方山ばなし
本書はクラッキー(名手)の愛称で親しまれ、独自のスタイルで支持を得るフットボール実況の第一人者・倉敷保雄氏による、『footballista』の連載コラム3年半分をまとめた書籍化第2弾である。著者が11-12シーズンから14-15シーズンの間に綴ってきたサッカー四方山ばなしが満載だ。
それら四方山ばなしの冒頭には必ずと言っていいほど“マクラ”が語られる。“マクラ”とは本題に入るための流れを作ったり、本題の魅力をより引き立たせるための雰囲気作りをする導入部を示す、落語の構成用語だ。小噺で笑わせて聴衆をリラックスさせる、本題に関連する話題で意識をその後の物語に引きつける、伏線を張る、といった役割が“マクラ”にはある。
この“マクラ”がとにかく面白い。蒸留の技術、ボブ・ディラン、トレーディングカード、熱力学の法則などなど、まさかサッカー本を読んでいて60年代の大映映画『釈迦』やSF作家のフィリップ・K・ディックという名前に出くわすとは思ってもみなかった。それらの話題が一見唐突にサッカーとは無関係に語られ始めたと思ったら、シームレスに本題へと移り変わっていくのだからその語り口たるや。さすがは20年以上もフットボール実況の第一線を走ってきた著者である。そして、その軽妙な“マクラ”に導かれた先に待っているのは、確かな経験に裏打ちされた知識と豊かな語り口が織りなす、生き生きとしたサッカーシーン談義だ。当時のリアルタイムを語る各項は、かつて覚えた興奮、熱量を読者に喚起し、時代を越えて愛されるサッカーの魅力を存分に伝えてくれる。
また、『ことの次第』というタイトルからは、ドイツの映画監督ヴィム・ヴェンダースの同名映画や不条理演劇で有名な劇作家サミュエル・ベケットの小説が連想される。“マクラ”で披露した豊かな知識を有する著者のことだ、このタイトルにも何か意図があるのだろうと勘ぐってみるが……一体どんな意味があるのやら。兎にも角にもサッカーファン必読の一冊である。
文:横川僚平(エルゴラッソ編集部)著者:倉敷 保雄(くらしき・やすお)
発行:7月5日/出版社:ソル・メディア/価格:1,600円(本体価格)/ページ:304P
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J2最終節、アウェイ・松本でカズが“憎まれ役”になる
横浜FCのカズが、約2万人の敵サポーターの前で“憎まれ役”になることを誓った。
20日のJ2最終節、横浜FCは松本とアウェイで戦う。松本は前節・町田戦の敗北で自動昇格圏の2位からJ1昇格プレーオフ圏の3位に陥落した。首位の札幌とは勝ち点3差、2位の清水とは同勝ち点ながら得失点差で下回る。最終節は札幌と清水の結果次第だが、勝てば優勝もあり得るし、負ければプレーオフに回ることになる。そんな状況だけに、約2万人収容のアルウィンのチケットは完売。アウェイチーム側の一角を除いてスタンドは緑のサポーターに埋め尽くされ、横浜FCは究極のアウェイ戦に挑むことになるのは間違いない。
しかしカズは、そんなシビれる最終節をすでに経験している。横浜FCが初めてJ1を戦った07年の最終節、ホーム日産スタジアムに浦和を迎えた。横浜FCはすでに最下位でJ2降格が決まっており、かたや浦和は鹿島に勝ち点1差で首位に立っていた。下馬評では浦和の優勝は確実視され、日産スタジアムに集まった約4万6千人のうち9割は浦和サポーターと思われるほどに、スタンドは赤く染まっていた。その試合で横浜FCは、カズのスルーパスから根占真伍が決めた1点を守り切り、鹿島が勝利したことで浦和の優勝を阻止したのだった。
その試合を思い出し、カズは「あのときみたいに何が起こるか分からない。松本は昇格も優勝も懸かっていて大事な一戦。非常にモチベーション高く、サポーターと一体となって戦ってくると思う。自分たちもこの1年間やってきたプライドを持って臨みたい」と、あくまで勝利のために全力を尽くす。「言葉が適切かは分からないけど、“良い人”にはならないように(笑)。憎まれ役になりたいと思う」。自身の出場は不透明だが、チームの重鎮にして副主将の立場から、横浜FCの選手たちにそうハッパをかけるつもりだ。大舞台になればなるほど力を発揮するキングが、緑に染まるスタンドを沈黙させる。
文・写真:芥川和久(エルゴラッソ横浜FC担当)